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小説『ブレイブ・ストーリー』宮部みゆき 感想

ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)
宮部 みゆき
角川書店
売り上げランキング: 46445
おすすめ度の平均: 4.0
5 テレビアニメで・・・
5 勇気や元気をもらいました!
4 一番インパクトのあったキャラクター
4 単なる「お子様向けRPG」と思いきや
5 成長

小説を読んだのは久しぶりですが、本当によくできた物語だと感じました。もう一気にがーっと読んでしまう話。

私はあまり日本人作家の本は読まないのですが、最近は日本語の勉強がてら、日本人が書いた小説を読もう…と思い、手に取ったのがブレイブストーリーでした。予想以上に面白くて、一気に読んでしまった。物語の終わった後の余韻はさながら、大作RPGをやり終えた感覚と若干似てました。今まで、一緒に苦難を乗り越えてきたのに、その冒険が終了してしまう侘しさ。しかも、ゲームと違って、小説は自分の想像力の中で生きています。話が面白いだけに、次から次へと湧き出るイメージを終了しなければいけないのですから、その侘しさもひとしおです。

先ほど、日本人作家の小説は読まない…といった通り、宮部みゆき作の本も初めて読みました。宮部みゆきの作家性質(?)みたいなものを知らなかったのですが、『模倣犯』を書いているからミステリーも得意なのでしょうか。伏線の張り方がうまいなぁと思いました。 はじめは何気なく電車で読んでいた、ブレイブストーリーに私がぐいと引き込まれるきっかけになったのは、実は、亘が父に捨てられた瞬間です。というのも、ずっと前から、なんとなく「あれ?父親の様子がおかしいな…」と感じていたからです。だから、その事件が起こった時は、こうなんかパズルがカチっとはまった感じがして、(ごめん亘)、ちょっとだけ爽快でした。まぁ、その後の亘が受けた仕打ちはそれは悲惨なものでしたけど…。ルウ叔父さのような亘を支える人間がいたから、そのまま読み続けられました。

”運命を変える”願いをかなえるために、幻界に飛ぶ亘だけど、この幻界での旅の記述がすばらしくよかったです。 文章を読んでいると、勝手にイメージが生成されていくのだけど、なんとなく虚構を纏ったリアリティ感(ファンタジーにはこういうのがあると思う)で、なんだろう。だから大げさなイメージ表現も許してもらえる…見たいな。文章に綴られている亘の気持ちそのままに、本当に私自身も泣いたり笑ったり驚いたり怒ったりしていたと思います。

泣いたりするのはよくあることだけど、小説を読んでいて笑ってしまうのは、初めての体験でちょっとびっくりしました。 中巻165ページのヴァイス副長が亘たちを呼びにきた時に、座ったままの格好で本当に飛んでしまったミーナの様子の部分とかとか、もう思い出しただけでクスクス笑ってしまいそうになる。

と、まぁ、約1400ページにも及ぶ小説を語れといわれても無理なわけで…。

総括すれば…この物語は、亘の現実や、幻界の情勢を理解することなどを考えると大人向けのファンタジーだとは思う。いや、でもコドモ向けの生ぬるいファンタジーじゃないからこそ、深みのある物語になっていると思います。まぁ、幻界でのエピソードは使い古されたネタも多数あるんだけど。別に私は、想像もつかないような新しい発想の空想劇を楽しんでいたわけじゃなく、亘の視点で、亘の成長を感じ取る、亘が何かを掴み取っていくその姿にこそ、楽しみを見出し、感動していました。わかりやすい(悪く言えば、よくある)映像描写に加えて、ある程度、先が読める話の展開だからこそ、亘の内面描写により集中できたと思います。

最後に、意識を取り戻した母親は、意識を失っている間、亘の視点で、キ・キーマやミーナと一緒に旅をしていた夢を見ていたことを告げます。そして、こう言うのです。 「亘、あなたば立派な勇者だったよ」 私も同じ気持ちでした。これはきっと、我々読者から亘に向ける言葉でもあるのでしょう。